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屋敷の奥に座れるだけの空間を作り、政宗といつきが向き合って座る。

彰吾と小十郎は控えるよう側に腰を下ろした。

政宗の隣に座ればいいと言われた遊士は、いつきが話しやすいよう政宗だけの方がいいだろ、と辞退して壁際に座った。

「いつき。何があった?」

刀を横に置き、腕組みをした政宗は話を切り出す。

「それが、…おらにもよく分からないだ」

いつきは膝の上でぎゅっと固く手を握り、口を開く。

「おら達はいつも通り田畑の手入れをしてただ。したら、いきなり刀持った人達が来て、村を荒らし始めただ」

「ソイツ等何か言ってなかったか?」

「…なんも。さっきの、鎌持った人がおら達が慌ててるの見て笑ってただ。アレは…人間じゃ、ねぇべ」

その時の事を思い出していつきは身体を震わせた。

理由もなく村を襲う。明智 光秀ならやりかねない。

その場にいるいつき以外の人間はそう思った。

政宗は組んでいた腕を解くと、右手をいつきの頭に乗せた。

「何はともあれ、俺達が来るまで良く頑張ったな」

そして、優しくくしゃりと頭を撫でた。

「…っ」

泣きそうに顔を歪め、俯いたいつきに、遊士は立ち上がると政宗に声をかける。

「どうせ今日は一晩此処で過ごすんだろ?」

「ah?一応そのつもりだぜ。荒らされた田畑や家屋の状況も確認してぇしな」

「OK.んじゃぁちょっといつき借りるぜ。Come onいつき」

俯いたいつきの手を取り、立ち上がらせる。

「おい、遊士!」

「「遊士様!」」

俯いたままのいつきの手を引き、遊士は三人を振り返る。

「すぐ戻るから彰吾はそこにいろよ」

そう言って遊士は屋敷を出た。

「いつき、お前の家何処だ?」

「…あそこだべ」

スンッと鼻を啜って顔を上げたいつきが、出てきた屋敷からそれほど離れていない前方を指差す。

中に入れば物は綺麗に整頓され、住みやすそうな環境だった。

「今、お茶出すからその辺座って待ってるべ」

「いや、いい。それよりここに座れ、いつき」

お茶を淹れようとしたいつきを引き止め、自分の正面に座らせる。

「…なんだべ?」

目の縁を赤くしたまま首を傾げるいつきに、遊士は政宗がしたように頭の上に手を乗せた。

そして、いつもの強きの態度とは一転、柔らかい空気を纏い優しい口調で言った。

「いつき。泣きたいなら我慢しないで泣け。怖いなら怖いって言え。お前はまだガキなんだ。強がる必要はねぇ」

「…な、して?会ったばっかのおらに優しくしてくれるだ?」

ポロリと涙を溢したいつきに遊士は優しく笑いかけた。

「オレにはちょうどいつきと同じ年頃の、いや少しアイツの方が下か。弟がいるんだ」

アイツもガキの癖に強がりで、見てらんねぇんだよ。庭で派手に転んで、痛い癖に痛いって言わない。まぁ、性格なのかも知れないが。

「っと、話が反れたな。とにかく強がる必要はどこにもねぇ。周りを良く見ろ。お前にはお前を心配してくれる仲間がちゃんといる。苦しくなったら仲間を頼れ。お前は一人じゃねぇ。本当は分かってるんだろ?」

ぽろぽろと泣き始めたいつきを抱き締めて、その背をぽんぽんと軽く叩いてやる。

「…っく…ひっく…おら…怖かっ…ただ。でも、守らなきゃ…また、村が…みんなが…っ…」

「今はオレ達もいる。だから素直に泣いとけ」

腕の中に抱き締めたいつきの身体は女の子らしく華奢で小さかった。








ひとしきり泣いて落ち着いたいつきは、後から込み上げて来た恥ずかしさに視線をうろうろさ迷わせながら口を開いた。

「…ありがとう、兄ちゃん。おら久しぶりにこんなに泣いただ」

「そうか。すっきりしただろ?」

遊士は最後にいつきの背を二回、ぽんぽんと軽く叩くといつきから離れた。

「ん。兄ちゃん、なんかおっかさんみたいだべ。おらのおっかさん、おらが泣くとよく抱き締めて背を叩いてくれたべ」

照れたように笑って言ったいつきに遊士はきょとんと瞼を瞬かせた。そして、次の瞬間にはそうかと頷いてニヤリと口端を吊り上げた。

「いつき。仲良くなった印にオレの秘密を教えてやる。…オレは兄ちゃんじゃなくて姉ちゃんだ」

「!?」

驚きに目を見開くいつきに遊士は証拠でも見してやろうか、と言う。

「いっ、いいべ」

それにいつきはぶんぶんと首を横に振った。

「オレが言うまで誰も気付かないんだぜ。可笑しいだろ」

ははっ、と笑う遊士にいつきは同意出来なかった。

「姉ちゃん、どこから見ても兄ちゃんに見えるだ。なしてそんな格好してるだ?」

「う〜ん。強いて言うなら、女だと嘗められるから。それに似合ってんだろ」

今度の問いにはうん、といつきは素直に頷いた。




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